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浦和地方裁判所川越支部 昭和54年(ワ)75号 判決

原告

宮田正康

渋谷一郎

川下寅夫

右原告三名訴訟代理人弁護士

川口巖

原口紘一

被告

高橋教衛

松崎カズ子

松崎博

右被告三名訴訟代理人弁護士

渡辺綱美

被告

岩森義政

田中輝夫

右被告五名訴訟代理人弁護士

福島栄一

倉澤和夫

主文

一  被告高橋教衛は、原告宮田正康、同渋谷一郎に対し、各金五〇万円及びこれに対する昭和五四年二月二一日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告宮田正康、同渋谷一郎と被告高橋教衛との間に生じたものは、これを二分し、その一を右原告両名の負担とし、その余を被告高橋教衛の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告高橋教衛は、原告宮田正康及び同渋谷一郎に対し、別紙物件目録二記載建物の二階部分を取り壊せ。

2  被告高橋教衛は、原告宮田正康及び同渋谷一郎に対し、別紙物件目録二記載建物の二階部分を建築してはならない。

3  被告松崎カズ子及び同松崎博は、原告川下寅夫に対し、別紙物件目録四記載建物の二階部分を建築してはならない。

4  被告高橋教衛、同岩森義政及び同田中輝夫は、連帯して、原告宮田正康および同渋谷一郎に対し、それぞれ金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年二月二〇日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  4につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(協定に基づく請求)

1 原告宮田正康(以下、「原告宮田」という。)は、別紙物件目録五記載の土地及び同目録六記載の建物(以下、土地については「原告宮田土地」、建物については「原告宮田建物」という。)を、原告渋谷一郎(以下、「原告渋谷」という。)は、別紙物件目録七記載の土地及び同目録八記載の建物(以下、土地については「原告渋谷土地」、建物については「原告渋谷建物」という。)を、原告川下寅夫(以下、「原告川下」という。)は、別紙物件目録九記載の土地及び同目録一〇記載の建物(以下、土地については「原告川下土地」、建物については「原告川下建物」という。)を、昭和四一年三月ころ、それぞれ所有者であった訴外財団法人東京労働者福祉厚生協会から買い受け、原告宮田、同川下は、そのころから、引き続きこれに居住し、原告渋谷については、現在その長男が、原告渋谷の家族としてこれに居住し、将来は、原告渋谷も妻と共に居住する予定である。

2 被告高橋教衛(以下、「被告高橋」という。)は、昭和五一年七月三〇日原告宮田土地、同渋谷土地の南側隣地である別紙物件目録一記載の土地(以下、「被告高橋」土地という。)を購入し、同年一〇月ころ同土地に木造平家建家屋(別紙物件目録二記載の建物。以下、「被告高橋建物」という。)を建築した。

被告松崎博は、昭和五一年六月二八日、原告川下土地の南側隣地である別紙物件目録三記載の土地(以下、「被告松崎土地」という。)を購入し、同年一〇月ころ同土地上に木造平家建(別紙物件目録四記載の建物。以下、「被告松崎建物」という。)を建築した。

3 原告ら「こぶし団地南側環境を守る会」と被告松崎博、同高橋間における協定

(一)(1) こぶし団地は、前記財団法人東京労働者福祉厚生協会が供給する土地、建物によって形成され、原告らの土地建物は、こぶし団地の南端に位置しており、原告らは「こぶし団地南側環境を守る会」(以下、「守る会」という。)に加入していた。

(2) 原告らを含む「守る会」に参加する住民(以下、「守る会」参加住民という。)は、被告高橋及び被告松崎博の建物建築によって日照阻害を受けることから、右被告両名と交渉をすることとし、昭和五一年九月五日、原告川下、訴外鈴木重喜及び同藤井淳美の三名を同会の代表として選出し、右被告両名と日照阻害を防止するための交渉を担当させることとし、そのための代理権を授与した。

(3) 原告川下、訴外鈴木及び同藤井の三名は、原告らを含む「守る会」参加住民のためにすることを示し、右被告両名との間で、昭和五一年九月一八日協定(以下、「本件協定」という。)を締結したが、被告両名は、右協定において各建物の二階部分を増築しない旨約した(本件協定第四条)。

(二) 仮に、原告川下、訴外鈴木及び同藤井の三名が、本件協定締結の際、原告宮田、同渋谷のためにすることを示さなかったとしても、右被告両名は、右代表三名が、原告宮田、同渋谷を含む「守る会」参加住民のためにすることを知悉していた。

(三) 被告松崎博と被告松崎カズ子は、夫婦であったが、被告カズ子は、本件協定成立後である昭和五三年四月二〇日、被告松崎博から被告松崎土地、建物を、離婚に伴う財産分与により取得した。

ところで、被告高橋及び同松崎博は、それぞれ同居する高橋方家族全員、松崎方家族全員のために、その家族共同体の代表者として本件協定を締結したものであるから、その後、被告松崎博が右離婚によって松崎方家族から離脱し、被告松崎カズ子が被告松崎土地、建物を前記財産分与により取得したことにより、新たに家族共同体の代表者となった被告松崎カズ子にも右協定の効力は及ぶ。

4 被告高橋、同松崎博の各建物の二階増築計画

被告高橋及び同松崎博は、それぞれの建物について二階増築を計画し、いずれも、昭和五三年一二月一九日、それぞれの建物についての二階増築の建築確認申請(以下、「本件確認申請」という。)を行い、昭和五四年一月一六日確認された。

被告高橋は、被告岩森義政(以下、「被告岩森」という。)及び同田中輝夫(以下、「被告田中」という。)に右増築工事を請け負わせて、昭和五四年二月二〇日工事に着工し、同月二七日ころ、二階部分の外部工事を完了した。

(日照権に基づく請求)

5 建物の所有関係について

(一) 前記1、2と同じ

(二) 被告松崎カズ子は、被告松崎博からその所有する被告松崎建物を昭和五三年四月二〇日財産分与により取得した。

6 被告高橋、被告松崎博の各建物の二階増築計画

前記4と同じ

7 日照被害について

本件確認申請に基づく被告高橋及び同被告松崎博の各建築計画は、これらが実施された場合、以下(一)、(二)、(三)の理由により、いずれも原告らの享受すべき日照が甚だしく阻害される。

(一) 建物の位置関係等について

原告宮田建物、同渋谷建物は、被告高橋建物の北側にあり、同被告建物との距離は約七ないし八メートルで、同被告建物に対し、やや斜めに向かい合っており、原告川下建物は、被告松崎建物の北側にあり、同被告建物との距離は約六メートルで、同被告建物に対しほぼ平行に向かい合っている。

原告らの建物は、いずれも二階建で二階の軒の高さ5.5メートルの平屋根であり、一階床面は地上高0.45メートル、二階床面は同2.7メートルである。一方、被告高橋建物及び同松崎建物の増築予定建物はいずれも二階建(但し、被告高橋建物は、既に外部工事済。)で、軒高6.40メートル、最高部7.31メートルの瓦葺屋根である。

しかしながら、原告宮田土地、同渋谷土地と被告高橋土地との間には1.04メートルの段差があるので、右原告両名土地からみた被告建物の実質的高さは軒高7.44メートル、最高部8.35メートルとなる。同じく原告川下土地と被告松崎土地との間には1.18メートルの段差があるので、右原告川下土地からみた被告松崎建物の実質的高さは軒高7.58メートル、最高部8.49メートルとなる。

(二) 本件確認申請にかかる増築と原告ら方の日照について

(1) 被告高橋建物、同松崎建物の二階増築が本件確認申請どおりに完了すると、冬至日において原告らの受ける日照被害は、以下のとおりとなる。

(a) 原告宮田建物について

午前八時にはすでに建物の約半分が被告高橋建物の日影に入り、午前九時には二階の下半分と一階全部が日影となる。その後、正午まで一階が日影のままである。午後零時三〇分ころから午後二時三〇分ころまでの間のわずか二時間程度一階にも日照があるが、その後は被告松崎建物の日影に入るのであって、結局、原告宮田建物の一階部分には一日中でわずかに二時間程度しか日照を受けることができなくなる。右一階部分には、日常生活上最も使用頻度が高く重要な役割を有している居間があるので、その被害は甚大である。

(b) 原告渋谷建物について

午前一〇時三〇分ころから居間として最も使用頻度の高い一階部分が被告高橋建物の日影に入りはじめ、その後、午後二時三〇分ころまで日影となり、午後三時ころから再び一階に日照があるのであって、結局日中の最も日照効果の高い時間帯には全く日照を得られない。

(c) 原告川下建物について

午前九時ころまでは、一階、二階とも被告松崎建物の日影に入っており、午前一〇時ころから次第に二階の窓に日照があるようになり、午前一一時になって二階部分にはようやく日照があるが、居間として使用頻度の高い一階部分には依然として日影のままであり、一階部分には、午前一二時ころからようやく日照がある。

(2) これらの結果、原告らは、周辺の良好な環境とうってかわった暗い、じめじめした日常生活と圧迫感に苦しめられ、現に、被告高橋建物の二階部分外部工事完了のため、原告宮田については、その同居する母ヌイ(明治四三年五月一五日生)が喘息気管支炎に罹患し、一向に治癒しない状況にある。

(三) 日照被害をめぐる諸事情について

(1) 地域性

昭和四一年当時、原告ら建物の周囲は農地であり、原告らは緑と太陽ときれいな空気を求めて入居した。その後の昭和四八年一月一六日原告ら土地及びその周辺土地は第一種住居専用地域に指定されるに至り、現在も良好な住宅地としての環境を保っている。

(2) 建築基準法規による規制基準との関係について

被告高橋建物及び同松崎建物は、いずれも形式的には建築基準法には違反していないが、これは同法が本件のような北側底段差の事実を予定せずに立法されたためであるところ、本件においては被告高橋土地と原告ら土地との間に1.04メートル、被告松崎土地と原告ら土地との間に1.18メートルの段差が存するため、原告ら土地からみて実質的な軒高は、被告高橋建物において7.44メートル、被告松崎建物において7.58メートルであり、このため、被告高橋建物によって形成される原告宮田土地、同渋谷土地における日影及び被告松崎建物によって形成される原告川下土地における日影は、いずれも原告らの土地の平均地盤面から1.5メートルの高さの水平面で、敷地境界線より五メートルを超え一〇メートル以内の範囲内において三時間以上の日影を生じさせており、実質的には建築基準法(同法五六条の二)に違反している。しかも、右段差は、もともと約八〇センチメートルしかなかったにもかかわらず、被告高橋及び同松崎博がそれぞれの建物を建築した際、土盛りをしたため生じさせたものである。

建築基準法上の規制はあくまでも一般的な条件下における画一的な最低基準を定めたものであり、特殊条件下では具体的にその内容を検討されなければならず、本件の場合、以上の北側段差と土盛りという特殊な条件に照らし、実質的には建築基準法の基準に触れるものである。

(3) 当事者の交渉経過等

原告ら建物の南側には、幾度か原告ら建物に対して日照阻害をもたらす建物建築計画があったが、その都度、原告らの反対にあって、許可変更など円満解決をみてきたのであるが、被告高橋、同松崎博、同松崎カズ子は、これらの事情を知悉したうえで、昭和五一年それぞれ建物を建築して入居し、更に、本件協定を無視してそれぞれ本件建築確認申請にかかる二階増築を計画し、その後、当事者間で交渉が行われていたにもかかわらず、被告高橋において、昭和五四年二月二〇日右二階増築工事に着工したため、原告らは同日浦和地方裁判所川越支部に対し、建築工事禁止を求める仮処分を申請し(浦和地方裁判所川越支部昭和五四年(ヨ)第四九号)、同月二三日被告高橋に対する工事続行禁止、被告松崎カズ子に対する工事禁止をそれぞれ命ずる仮処分決定を得たが、被告高橋は居留守を使い、故意に右決定書を受け取らず、所沢郵便局保管とし、同月二七日ようやくこれを受け取り、その間工事を強行し、右決定の送達を受けた後も右決定に違反して内装工事を続行した。

(被告高橋、同岩森、同田中の損害賠償責任)

8 被告岩森は建築業者であり、被告田中は瓦業者であるが、右被告両名は被告高橋から前記二階増築工事を請負い、右二階増築が本件協定に違反し、また、原告宮田建物及び同渋谷建物の日照を受忍できないまでに甚だしく阻害することを知悉しながら前記のとおりの工事を完了した。その結果、原告宮田、同渋谷は、被告高橋に対して弁護士に訴訟委任して本訴を提起せざるを得なくなり、後記弁護士費用相当額の損害を被った。

9 損害

弁護士費用 各二〇〇万円

(結論)

よって、原告宮田、同渋谷は、被告高橋に対して、本件協定による二階増築禁止特約に基づき、予備的に土地建物所有権又は人格権に基づき被告高橋建物の二階部分の取毀しと被告高橋建物の二階部分の建築禁止を求め、被告高橋、同岩森、同田中に対し、被告高橋については債務不履行もしくは不法行為に基づき、被告岩森、同田中に対しては不法行為に基づき、右被告三名各自、それぞれ損害賠償金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年二月二〇日以降支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告川下は、被告松崎博、同松崎カズ子に対し、本件協定による二階増築禁止特約に基づき、予備的に土地建物の所有権又は人格に基づき、被告松崎建物の二階部分の建築禁止を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実について

(一) 同3(一)(1)の事実は認める。同3(一)(2)の事実は否認する。同3(一)(3)の事実のうち、被告高橋、同松崎博が原告川下、訴外鈴木重喜、同藤井淳美と本件協定を締結したことは認め、その余は否認する。

(二) 同3(二)の事実は否認する。

(三) 同3(三)の事実のうち婚姻関係にあった被告松崎博、同松崎カズ子が離婚し、被告松崎博が離婚に伴う財産分与として被告カズ子に被告松崎土地建物を譲渡したことは認め、その余は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実について

(一) 同5(一)の事実については同1、2の事実に対する認否と同じ

(二) 同5(二)の事実は認める。

6  同6の事実は認める。

7  同7の事実について

(一) 同7(一)の事実は不知

(二) 同7(二)の事実のうち(1)は不知、(2)は否認する。

(三) 同7(三)の事実について (1)のうち昭和四八年一月一六日原告ら土地及び同周辺土地が第一種住居専用地域に指定されたことは認め、原告らの入居動機は不知、その余は否認する。(2)は争う。(3)のうち原告ら主張のような仮処分命令がなされたことは認め、その余は否認する。

8  同8の事実は否認する。

9  同9の事実は争う。

三  抗弁

1  本件協定義務の免除

訴外鈴木、同藤井の二名が、「守る会」参加住民を代理して、昭和五四年二月一九日被告高橋、同松崎博に対し、それぞれの本件確認申請にかかる二階増築を認めて、右被告両名の二階増築禁止義務を免除した。

もしくは、原告川下、同宮田を除く「守る会」参加住民は、前同日被告高橋、同松崎博に対し、右被告両名の二階増築禁止義務を免除した。

2  本件協定の合意解除

訴外鈴木、同藤井の二名が「守る会」参加住民を代理して、被告高橋、同松崎博との間で昭和五四年二月一九日本件協定による約定を解除する旨合意した。

もしくは、原告川下、同宮田を除く「守る会」参加住民は、前同日被告高橋、同松崎博との間で、右協定を解除する旨合意した。

3  立会人による本件協定第四条が失効した旨の解釈

本件協定締結の際、第一〇条において、協定に疑義を生じた場合には、訴外池田達雄、同田中正之、同吉田常雄立ち会いのもとに協議するものとし、協議が整わない場合は、立会人の解釈に従う旨の合意がなされた。被告高橋、同松崎博は、昭和五四年二月五日から同月一九日まで数回にわたり、右協定第一〇条に基づき、訴外池田ら三名立ち会いのもと、原告らを含む「守る会」参加住民との間で、右被告両名の二階増築を認めるための協議を行ったが、協議が整わなかったところ、右立会人らは、右被告両名の二階建増築を認める旨の解釈を表明した。

4  本件協定の合理的解釈

本件協定による被告高橋、同松崎博の二階増築禁止の特約は原告らの享受すべき日照が社会生活上一般的に受忍されるべき限度を超えて阻害されるに至るような二階増築を禁止する趣旨のもので、いかなる場合にも増築を禁止するというものではない。

そして、本件では、本件確認申請に基づく二階増築計画を認めても、原告ら建物に対する日照が、従前と比較できない程の悪影響を与えることはなく、受忍限度を越えないことは明らかであるので、右のような事情のもとでは、本件協定の文言にもかかわらず、右二階増築計画を禁止しない趣旨と解すべきである。

5  事情変更による本件協定の解約

現在、原告ら建物の周辺は宅地化が進み、所沢市内の第一種住居専用地域あるいは建築協定の締結された区域内において敷地六〇ないし八〇坪の広さをもって建築された高級分譲住宅においても、原告らが現に享受している程度の日照を確保できないものが多く、また、二階建建物も多くなった。加えて、原告川下建物も南東部分に二階を増築しているし、前記「守る会」代表者の一人であった訴外鈴木方も平家ではあるが南西部分に増築したりしている。

被告高橋、同松崎博は、本協定締結の際、第三条において原告ら土地との境界線から2.5メートルの間隔をおいてそれぞれの建物を建築する旨の合意をし、これに従って、被告高橋建物、被告松崎建物を建築したため、原告ら建物はいずれも二階部分はもとより、一階部分にも日照があるにもかかわらず、被告高橋建物、同松崎建物は室内の戸が凍りつき、壁紙などが湿気でふやけ、カビがはえる程であり、日照、採光、通風ともに原告ら建物に著しく劣後する。

更に、被告高橋については義父母と同居し、三世代六人で被告高橋建物に居住しているため、手狭であるうえ、義父母が神経痛に悩まされるようになったため、日照を得るため二階増築の必要性が高い。

以上の事情によれば、現在において本件協定の効力を維持することは、著しく被告高橋、同松崎博にとって酷な結果となるので、事情変更の原則により、被告高橋、同松崎博は、本件訴訟手続において、本件協定を解約する旨の意思表示をした。

6  本件協定による利益の放棄

被告高橋、同松崎博は、「守る会」の圧力をおそれて、二階増築禁止、境界よりの2.5メートル後退など建築基準法所定の義務以上の内容の協定を結んだが、そのかわり「守る会」会員も増築しないこと、すなわち、日照、通風、圧迫感などの問題で「守る会」が右被告らに強硬に要求した空間の維持義務は右会員らも同様に拘束されることが当然の前提であった。それにもかかわらず、訴外鈴木は一階平家建を増築し、原告川下は、その後右境界線寄りに二階建建物を増築したが、この行為は、本件協定の基本精神に反し、自らその利益を放棄するものであるから、本件協定の効力は失われた。

7  権利濫用及び公序良俗違反

仮に、本件協定の効力が消滅していないとしても、原告らが右協定に基づいて権利を主張することは、原告らにおいて、極度に他人の権利を犠牲にして自己の利己的な利益をはかるものであって、もはや権利の濫用というべきである。

また、本件協定は、解除条件・存続期間等の定めがなく、無制限の期間、社会的に不相当な財産権の制約を課すことになるから、その締結経緯等も総合すると、公序良俗違反により無効と解すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁はいずれも否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一当事者及びその土地建物について

一〈証拠〉及び弁論の全趣旨によると、原告宮田は原告宮田土地及び原告宮田建物を、原告渋谷は原告渋谷土地及び原告渋谷建物を、原告川下は原告川下土地及び原告川下建物を、昭和四一年三月ころ、いずれも所有者であった訴外財団法人東京労働者福祉厚生協会から所有権留保付で買い受け、昭和六二年所有権が移転した。原告宮田、同川下は、前記買い受け時より引き続きこれに居住し、原告渋谷については、現在その長男が、原告渋谷の家族としてこれに居住し、将来は、原告渋谷も妻と共に居住する予定であることが認められる。

二同2の事実(被告高橋、同松崎博の増築計画)は、当事者間に争いがない。

第二協定に基づく請求について

一協定の締結について

同3(一)の各事実のうち、原告らが「守る会」に加入していたこと、原告川下、訴外鈴木及び同藤井と被告高橋及び同松崎博が本件協定を締結したことはいずれも当事者間に争いがない。

〈証拠〉並びに弁論の全趣旨によると、被告高橋、同松崎博が昭和五一年、被告高橋土地及び同松崎土地にそれぞれ建物を建築しようとした際、右土地が原告らの土地の南側に位置し、しかも、右両者の土地の間に約八〇センチメートルの段差があり、原告らの土地の方が低かったため、原告らを含む「守る会」参加住民は、右被告両名が二階建建物を建築した場合、実質的に三階建建物を隣地に建築されたのと同様の日照被害を受けるとして、右被告両名と交渉を繰り返し、昭和五一年九月一八日、所沢市市民相談員訴外池田達雄、同田中正之、所沢市議会議員・こぶし団地会長訴外吉田常雄の立ち会いのもと、本件協定を締結したのであるが、原告らを含む「守る会」参加住民は、同月五日、原告川下、訴外鈴木重喜及び同藤井淳美をして右被告両名と日照阻害を防止するための交渉を担当させることとし、同会の代表として選出し、右三名に右交渉を委任し、右三名は「守る会」参加住民のためにすることを示し、前記協定を締結したものと認められる。

二同3(三)の事実のうち婚姻関係にあった被告松崎博、同松崎カズ子が離婚し、被告松崎博が離婚に伴う財産分与として被告カズ子に被告松崎土地建物を譲渡したことは当事者間に争いがない。

原告らは、被告松崎博は、同居する松崎方家族全員のためにその家族共同体の代表者として本件協定を締結したものであるから、被告松崎博が離婚によって松崎方家族から離脱し、被告松崎カズ子が被告松崎土地、建物を前記財産分与により取得した場合には、新たに家族共同体の代表者となった被告松崎カズ子にも右協定の効力は及ぶと主張するが、本件協定締結により、被告松崎カズ子がその契約の効力を反射的に受けることはあっても、直接その効力を受けるとは考えられず、財産分与があった場合に被告松崎カズ子が同松崎博に代わって本件協定の義務を当然に引き受けるとも考えられない。

三同4の事実(被告高橋、被告松崎博の各建物の二階増築計画及び被告高橋建物の外部工事の完了)については当事者間に争いがない。

第三協定の効力について

一本件協定締結後の事情

前記第一の二の事実(被告高橋、同松崎博の増築計画)に加えて、〈証拠〉を総合すると以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

1  被告高橋、同松崎博の増築計画

本件協定締結後、右被告両名は、右協定に従って平家建建物を建築したものの、二階増築の必要を感じていたところ、原告川下が昭和五三年一一月ころ、境界線寄りに二階建建物を増築したことを機に、右被告両名も二階増築を計画し、いずれも、昭和五三年一二月一九日、それぞれの建物についての建築確認申請を行った。

2  「守る会」との交渉経過について

「守る会」参加住民は、前記増築計画を知り、昭和五四年二月五日から本件協定締結時の立会人池田、同田中、同吉田の立会いのもと、右増築の許否について協議し、日照状況を調査した結果、右立会人らは二階増築を認めるべきとの発言をし、「守る会」参加住民の間にも、前記代表三名のうち二名を始めとし、「守る会」参加住民の二階部分の日照が確保される限りは、右被告両名の増築を認めてもよいとの意見も出されたが、協議が調わなかったため、当面の増築予定者であった被告高橋と被告高橋建物の影響を最も受けると考えられた原告宮田との間の協議に委ねることとしたが、同月一九日に至っても協議が調わなかったため、同月二〇日被告高橋は二階増築工事に着工した。

このため、原告らは、昭和五四年二月二〇日浦和地方裁判所川越支部に増築工事の禁止を求める仮処分を申立てたところ(当庁昭和五四年(ヨ)第四九号)、同月二三日被告高橋に対する工事続行禁止、被告松崎カズ子に対する工事禁止をそれぞれ命ずる決定を得たが、被告高橋は、右決定が送達されるまでの間、工事を続け、外部工事を完了させた

二本件協定の義務の免除もしくは合意解除について

前記一2によると、訴外鈴木、同藤井(本件協定締結の際の「守る会」代表者三名のうち二名)は、前記交渉の経過において、被告高橋、同松崎博に対し、「守る会」参加住民の二階部分の日照が確保される限りは二階増築を認める旨の意思を表明したが、当時、右二名が「守る会」参加住民を代理する権限を委任されたことや右住民のためにすることを示して右表示をしたと認めるに足る証拠はなく、「守る会」参加住民が右被告両名に対して二階増築をしない義務を免除したり、右被告両名との間で本件協定による約定を解除する旨合意したと認めるに足る証拠もない。

三本件協定の解釈について

前記甲第二号証によると、本件協定締結の際、第一〇条において、協定に疑義を生じた場合には、訴外池田達雄、同田中正之、同吉田常雄立ち会いのもとに協議するものとし、協議が整わない場合には、立会人の解釈に従う旨の合意がなされたことが認められるが、本件協定第四条の約定の文言の意義自体はむしろ一義的であって、その解釈に疑義があったわけではなく、右三名の立ち会いを求めたうえで交渉したのは、協定の内容自体を変更することを目的としたものであることが認められる。したがって、前記のとおり、昭和五四年二月五日から同月一九日まで数回にわたり、訴外池田ら三名立ち会いのもと、原告らを含む「守る会」参加住民との間で、被告高橋、同松崎博の二階増築を認めるか否かの協議を行った際、協議が整わなかったため、右立会人らが、右被告両名の二階建増築を認める旨の解釈を表明したからといって、本件協定第一〇条により第四条の効力が消滅したと認めることはできない

また、本件協定の文言が比較的一義的であることに加えて、前記一2に述べた交渉経緯からすると、本件協定第四条につき、「守る会」参加住民及び被告高橋、同松崎博の意思解釈として、被告らが主張した内容の趣旨と認めることもできない。

四本件協定による利益の放棄

前示のとおり、原告川下は、本件協定締結後、右境界線寄りに二階建建物を増築したが、本件協定はその締結の経過にも照らすと、専ら「守る会」参加住民のために締結されたものであって、右原告川下の増築により、同原告の日照が当初より減少する結果、右減少するだけの日照を自ら放棄したと認めることはできても、このことにより、本件協定による約定の効果を全て放棄したとみることは到底できない。

五権利濫用及び公序良俗違反

本件協定の内容は、被告高橋、同松崎博が二階建物を建築しない旨を原告らに対して約したものであるところ、このこと自体が公序良俗に違反しているということはできず、また右協定を理由に本訴を提起すること自体が協定の権利を濫用しているとも認められない。その他、本件協定締結の経緯をみても、原告らの主張を認めるに足る事情は存しない。

六事情変更による本件協定の失効

〈証拠〉並びに弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

被告高橋、同松崎博は、本件協定締結の際、第三条において原告ら土地との境界線から2.5メートルの間隔をおいてそれぞれの建物を建築する旨の合意をし、これに従って、被告高橋建物、被告松崎建物を建築したため、原告ら建物はいずれも後記第四の三「日照被害について」のとおり二階部分はもとより、一階部分についても相当時間日照があることが認められる。

一方、被告高橋建物、同松崎博建物の受ける日照は、原告ら建物に相当劣後する状態にあり、被告高橋については義父母と同居し、三世代六人で被告高橋建物に居住し、手狭であるため二階増築の必要性が高い。

また、現在、原告ら建物の周辺は宅地化が進み、二階建建物も多くなり、現に原告川下建物も南東部分に二階を増築しているし、前記「守る会」代表者の一人であった訴外鈴木方も平家ではあるが南西部分に増築したりしている。加えて、前記一2のとおり、被告高橋建物、同松崎建物の二階増築について、右被告両名と「守る会」参加住民との間で交渉した際、前記立会人らや「守る会」参加住民の中にも右二階増築を認めてもよいとの発言があったことが認められる。

ところが、本件協定には期間についての定めがないが、本件協定の効力が永久に継続すると解することはいかにも不都合であり、かといって、終了時期を確定することも困難である。

しかし、前記で認定したとおり、本件協定が締結された頃から、原告ら建物周辺は急速に宅地化が進み、地価の高騰とともに宅地が細分化され、二階建建物が多くなってきたこと等を総合すると、訴提起時はともかくとして、少なくとも現時点でもなお、本件協定四条の効力を右被告両名に対して及ぼすことは、社会通念上、同人らに酷といわなくてはならず、ある程度の二階建を認めるのはやむを得ないものと解するのが相当である。

したがって、本件協定の効力は、現時点においては、これを否定せざるをえない。

第四日照権に基づく請求について

一建物の所有関係について

1 前記第一、一と同じ

2  請求原因5(二)の事実(被告松崎カズ子に対する財産分与)は当事者間に争いがない。

二被告高橋、同松崎博の各建物の二階増築計画及び被告高橋建物の外部工事の完了は当事者間に争いがない。

三日照被害について

1  日照状況について

〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(一) 建物の位置関係等について

原告宮田建物、同渋谷建物は、被告高橋建物の北側にあり、同被告建物との距離は約七ないし八メートルで、同被告建物に対し、やや斜めに向かい合っており、原告川下建物は、被告松崎建物の北側にあり、同被告建物との距離は約六メートルで、同被告建物に対しほぼ平行に向かい合っている。なお、昭和五四年一月ころ原告川下が自己居宅南東部に増築を施したため、右距離は約六メートルとなった。

原告らの建物は、いずれも二階建で二階の軒の高さ5.5メートルの平屋根であり、一階床面は地上高0.45メートル、二階床面は同2.7メートルである。一方、被告高橋建物及び同松崎建物の増築予定建物はいずれも二階建(但し、被告高橋建物は、既に外部工事済。)で、軒高6.40メートル、最高部7.31メートルの瓦葺屋根である。

しかしながら、原告宮田土地、同渋谷土地と被告高橋土地との間には1.04メートルの段差があるので、右原告両名土地からみた被告建物の実質的高さは軒高7.44メートル、最高部8.35メートルとなる。同じく原告川下土地と被告松崎土地との間には1.18メートルの段差があるので、右原告川下土地からみた被告松崎建物の実質的高さは軒高7.58メートル、最高部8.49メートルとなる。

(二) 本件確認申請にかかる増築と原告ら各建物の日照について

(1) 本件協定締結当時、原告らの各建物には被告高橋建物、同松崎建物に面した南側建物開口部として、一、二階にそれぞれ高さ約1.8メートル、幅約1.7メートルのテラス型窓が一面ずつ設けられており、更に一階に台所用小窓が設けられていた。原告宮田建物、同渋谷建物については現在もそのままであるが、原告川下建物については、その後の昭和五四年一月ころ自己居宅南東部に前記増築を施したため、一階部分の窓については台所用小窓を残して従来の窓は消失し、代わって、従来より約二メートル南側に寄った増築部分南側に高さ約二メートル、幅約2.5メートルのテラス型窓が設けられ、二階については従来の窓に加え、従来より約二メートル南側に寄った増築部分南側に高さ約1.7メートル、幅約1.7メートルのテラス型窓が設けられており、それぞれの建物の開口部となっている。

(2) 冬至における原告ら建物の日照状況

本件確認申請にかかる増築が実施された場合、原告ら各建物の冬至における日照は以下のとおりとなる。

(a) 原告宮田建物について

二階開口部については、午前八時ころから被告高橋建物の日影下に入り始めるが、午前九時には開口部上側半分近くに日照があり、その後次第に右日照部分は広がり、午後零時には開口部のほぼ全体に日照があり、午後二時以降は被告高橋建物の影響は受けない。なお、午後三時ころから被告松崎建物の日影に入り始める。

一階主要開口部(テラス型窓)については、午前八時には開口部西側半分が、午前九時には開口部全体が被告高橋建物の日影下に入り、午後零時までその状態が続くが、遅くとも午後一時までには開口部全体に日影があり、その後被告高橋建物の影響を受けることはない。なお、二時間近く日照を受けた後、午後三時には開口部全体が被告松崎建物の日影に入る。

(b) 原告渋谷建物について

二階開口部については、午前八時から開口部全体に日影があり、午前九時から午前一〇時にかけて開口部下側を被告高橋建物の二階軒先の日影がかすめるもののその後午後一時までほとんど影響を受けず、午後二時ころになって開口部下側三分一程度が被告高橋建物の日影下に入るが、午後三時には再び開口部全体に日影があり、その後、被告高橋建物の影響は受けない。

一階主要開口部(テラス型窓)については、午前八時から開口部全体に日照があり、午前一〇時から被告高橋建物の日影下に入り始め、午前一一時には開口部全体が日影下に入るが、午後三時には開口部の約七割に日照があり、その後日照部分は広がる。

(c) 原告川下建物について

二階開口部(従来の開口部及び増築部分の開口部)については、午前九時までは開口部全体が被告松崎建物の日影下にあるが、午前一〇時には従来の開口部の西側半分及び増築部分の開口部の上側半分に日照があり、午前一一時には従来の開口部の全体及び増築部分の開口部の上側約七割に日照があり、午後零時すぎからは開口部全体に日照があり、その後被告松崎建物の影響を受けない。

一階主要開口部(テラス型窓)については午前一一時まで開口部全体が被告松崎建物の日影下にあるが、午前一一時から日照を受け始め、午後零時には開口部の約七割に、午後一時にはほとんど開口部全体に日照があり、その後被告松崎建物の影響を受けない。

2  日照被害をめぐる諸事情について

(一) 地域性

本件原告ら建物所在地及びその周辺土地が第一種住居専用地域に指定されていることについては当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、こぶし団地が建設され、原告らが、入居した昭和四一年当時、原告ら建物の周囲は農地であったが、遅くとも昭和四九年ころには周囲は宅地化されはじめ、昭和五四年当時になると、まだ周囲に農地は存在するものの、宅地化の傾向は相当に進行し、一方こぶし団地内部にあっても、居室を増やすための増築が相当数行われていたことが認められる。

(二) 建築基準法規による規制基準との関係について

建築基準法五六条の二、同法施行令一三五条の四の二によると、建築物の敷地(本件では被告高橋土地、同松崎土地)の平均地盤面が隣地より低い場合については一定の場合において、むしろ規制を緩和する旨の定めがなされているが、隣地より高い場合については、何ら特別の定めをしていないことからすると、通常と同一の規制に従うことで足りるものと解される(そうでないと、隣地との高低差が著しい場合、平屋建の建物すら建築できない場合が生ずる)。右解釈に反する原告らの主張は独自の見解にすぎず採用できない。

なお、〈証拠〉及び弁論の全趣旨を総合すると、被告高橋、同松崎博がそれぞれの建物を建築する際、土盛りをした結果、約八〇センチメートルあった段差が被告高橋土地については1.04メートルの、被告松崎土地ついては1.18メートルの段差になったが、少なくとも最終的には、右土盛りには原告らの同意が得られていたことが認められるのであって、本件土盛りによって、右被告両名の二階増築計画が実質的に建築基準法に違反することにはならない。

(三) 当事者の交渉経過等

前記第一の二、同第二の一、同第三の一のとおり、被告高橋、同松崎博は、昭和五一年、被告高橋土地及び同松崎土地にそれぞれ建物を建築しようとした際、増築を計画した際、いずれも、所沢市市民相談員などの立ち会いのもと「守る会」参加住民との間で協議を重ねたことが認められる。

しかし、増築計画についての協議は調わず、昭和五四年二月二〇日被告高橋が二階増築工事に着工したため、原告らは、昭和五四年二月二〇日浦和地方裁判所川越支部に増築工事の禁止を求める仮処分を申立てたところ(当庁昭和五四年(ヨ)第四九号)、同月二三日被告高橋に対する工事続行禁止、被告松崎カズ子に対する工事禁止をそれぞれ命ずる決定を得たが、被告高橋は、右決定が送達されるまでの間工事を続け、外部工事を完了させた。

四以上のとおり、本件増築計画の実施によって原告らの受ける日照阻害の程度は、その周辺の地域性に照らしても、さほど重大とはいえず、その交渉経過をも併せ考えても、右日照の阻害をもって、受忍限度を越えたものということはできない。

第五被告高橋、同岩森、同田中の損害賠償責任

一前示のとおり、本件口頭弁論終結時においては、被告高橋に対する建物の取毀しを求める請求は理由がないが、右被告が二階増築工事に着工した段階では、本件協定の効力を否定する特別な事情は見当たらない。そうすると、被告高橋は、本件協定に違反して、昭和五四年一二月二〇日工事に着工し、同月二七日ころには二階部分の外部工事を完了したものであって、右行為は、本件協定によって保護される原告宮田、同渋谷の利益を違法に侵害したものといわざるを得ず、このため、原告宮田、同渋谷らが、仮処分を申請し、本訴を準備するにあたって要した費用を賠償する責任があるというべきである。

しかし、被告岩森、同田中については、右二階増築工事に際して、本件協定締結の状況や、その後の「守る会」との交渉経過について右被告両名が知悉していたと認めるに足る証拠はないから、右被告両名に対する請求は理由がない。

二損害

右被告高橋の前記不法行為に基づく損害のうち、原告宮田、同渋谷が要した弁護士費用については、各金五〇万円を相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

第六結論

以上のとおりであって、原告宮田、同渋谷の被告高橋に対する損害賠償請求については各金五〇万円及びこれに対する不法行為の翌日(二階建増築工事着工の翌日)である昭和五四年二月二一日から支払い済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、原告宮田、同渋谷の被告高橋に対するその余の請求及び被告岩森、同田中に対する請求、原告川下の被告松崎博、同松崎カズ子に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官村重慶一 裁判官荒川昂 裁判官山田陽三)

別紙物件目録

一 所在 所沢市東新井町

地番 七五五番一二二

地目 宅地

地積 155.10平方メートル

二 所在 所沢市東新井町七五五番地一二二

家屋番号 七五五番一二二

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 79.32平方メートル

三 所在 所沢市東新井町

地番 七五四番五

地目 宅地

地積 155.00平方メートル

四 所在 所沢市東新井町七五四番地五

家屋番号 七五四番五

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 93.78平方メートル

五 所在 所沢市こぶし町

地番 七五五番四

地目 宅地

地積 82.18平方メートル

六 所在 所沢市こぶし町七五五番地四

家屋番号 七五五番四

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根二階建

床面積

一階 23.27平方メートル

二階 23.27平方メートル

七 所在 所沢市こぶし町

地番 七五五番五

地目 宅地

地積 82.18平方メートル

八 所在 所沢市こぶし町七五五番地五

家屋番号 七五五番五

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根二階建

床面積

一階 23.27平方メートル

二階 23.27平方メートル

九 所在 所沢市こぶし町七三八番地二七

地番 七三八番二七

地目 宅地

地積 88.46平方メートル

一〇 所在 所沢市こぶし町七三八番地二七

家屋番号 七三八番二七

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根二階建

床面積

一階 23.27平方メートル

二階 23.27平方メートル

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